II. 多視点映像教材
多視点映像とは,図1のように,ある撮影対象を多数のカメラで同時に撮影した図2のような映像データである.例えば,スポーツ中継において,野球の投手を,スタンド側から,バックネット裏側から,ベンチ方向からなど,様々な場所から競技の様子を撮影した映像である.他の例としては,多数のビデオカメラを使用したビルの監視,運動会などで多数の保護者がビデオカメラで自分達の子どもを撮影したような映像などが挙げられる.
多視点映像は,一台のカメラでは撮影できない同じ被写体を別のアングルから複数のカメラで撮影する方法であるが,多視点映像を扱う際の問題点として以下のようなことが挙げられた.
- 各カメラの撮影場所を把握するのが困難
- 映像が大量であり,注釈付けや管理が困難
- 必要な映像を検索する方法が困難
- 自由視点映像を提示する方法が困難
このため多視点の教材の作成には,多様な環境の中で,被写体の状況を確実に,事実に基づいて記録し,教材化すること.さらにそれらの多視点映像教材を用いた授業や自己学習教材としての利用方法等の総合的な教材化の開発が,多様な学習者に対応した映像の教材化の開発として重要である.
しかし,多視点映像の教育利用について次のような課題があると考えられる.
㈰多視点映像教材とその撮影方法について
映像教材には,これまで,単方向からの撮影が主であり,同時に多方向からの撮影が困難なため記録されていないのが現状である.しかし,学習教材の記録には,撮影の位置方向に大きな意味のある場合が多く,動きが判断できる多視点の撮影記録が必要である.このため,複数の高品位なHDカメラを用いて,同時に多方向からの撮影できる装置とその撮影方法の研究が必要となる.
㈪映像の記録とデータ管理技術について
多視点から同時に撮影をして得るデータは,独立した複数個のデータである.これらのデータには,同時性の観点からいろいろな比較検討が可能になるデータ管理が必要であり,これらの方法について研究する必要がある.
㈫比較検討をするための提示方法について
多視点で同時撮影した映像は,それぞれ独立したデジタル・カメラで撮影していて,これらの映像をどのように提示し,実験観測などの分析・評価などに利用するかが重要である.このため多方向からの映像配列の方法,各撮影位置の視点から,どのような画面を提示し,相互の関係を見るかが大きな課題となる.
そこで,多視点の画像一覧をもとに,多視点の対面している画面,連続画面,各画面による変化を見るための画面,各種の比較検討をするための提示方法について研究する必要がある.
㈬多視点映像教材の評価について
映像教材の開発,研究により,これまでの単方向映像による教材データベースを中心にした状況から,学習者の目的に応じた多視点映像教材としての利用へと発展した.特にこれまでの静止画教材データベース等を用いた資料管理から,教材として必要な文脈のある多視点動画情報と画像が鮮明な多視点静止画情報を利用する方法などその利用方法が多様化し,各メディアの特性に対応した教材の検討をするための評価が望まる.今後,これらの教材としての評価方法について研究する必要がある.
㈭多方向撮影技術と教材化技術の開発
教材資料の多視点化を目指した研究として,実験観察する対象の周囲に複数のHDビデオカメラを配置し,それらによって撮影された多視点動画映像と同対象の周囲に多数のデジタル・カメラを配置し,それらによって撮影された多視点静止画映像により,実験観察の特徴を抽出し,総合化を実現することにより,より活用しやすい多視点映像教材化技術の開発することが必要となる.
㈮オーサリングシステムによる関連資料の総合化について
実験観察映像の教材化が多く開発されはじめ,資料提示や研究利用が進み,これまでの素材の集合からコンテクストのある構成が必要とされはじめた.この課題の解釈方法の一つとして,動画と静止画の総合化技術を用いた文脈性のある情報管理構成をもつ教材を作成することが必要となる.
㈯新しい多視点映像教材化技術の開発
新しい多視点映像教材化技術として,学習者が希望のアングルの映像を瞬時に見ることが可能な編集技術や,高品位な映像で,どこまでも拡大し,細部の映像を高品位で再現する技術等が既に開発されている.また,3D技術により立体での撮影技術や編集技術は,教材としてより臨場感がある映像を高品位で提供することで,より教材として教育効果が期待できる.
本研究では,これらの課題を視点において,基礎的な研究を具体的な学習教材を開発する中で実践的に研究した.